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2013へび年

2013/01/01 
すでに起こった未来。
東日本大震災被災地の一日も早い復興と、本年の皆様のご多幸をお祈りします。

あけましておめでとうございます。『字統』によれば、「巳」の文字には、陰気がすでに収まり、新たな息吹が芽生えるという意味があるそうです。
確かに不況や混沌の中にこそ新しい芽が存在することは、歴史の教えるところでもあります。ドラッカーも人口の変化や人々の意識など「すでに起こった未来」に企業家は着目すべきであると教えています。そこには大きなチャンスが潜んでいるからです(チャンスにはプラスのものとマイナスのものがありますが・・・)。

 目を美容界に転じるとどうでしょうか?昨年は幸いにも私どもが親しくお付き合いさせていただいている理美容師の方々の多くが、『マルセル』(新美容出版)をはじめ業界紙等で注目を集めた年でした。ヌースフィットの提唱するFMCB理論が昨年の『マルセル』5月号で約40ページ近くに及んで特集されたのも、私たちにとっては驚きでした。

 しかし、親しいある美容師さんによれば、美容師は、さまざまなお客様に対応していると言っておきながら、行う行動の95%はルーチンワーク、すなわち惰性で行なっているとのことで、これが技術不足、ひいては毛髪ダメージ増加につながっている、と話されていました。これは本当でしょうか?

ルーチンワークを確実にこなすことも、サロン、とくにアシスタントの方々にとっては大切な業務です。価格競争の店であれば、いかに業務を効率化しルーチン化するかが、成功への重要な要素になってきます。価格で競争するサロンにはそれなりの厳しさがあるとは思います。しかし、そういった店でないかぎり、95%とならずともルーチンワークがサロン業務で大きな割合を占めるのは問題です。
夢を持ってこの業界に入った多くの理美容師さんが望むサロンの将来像はそこにはないはずです。価格競争にさらされない、お客様一人ひとりに他店にない優れた価値を提供するサロンのはずです。

そうした将来像を持っているにも拘らず、仕事の多くがルーチンワークに陥ってしまえば、当然簡単なシステム、簡単な薬剤を求めるようになるでしょう。そうなれば、施術の結果や毛髪ダメージは、例えばカラーであれば、お客様が量販店で買ってきた薬剤で自らを染めるホームカラーと変わらなくなってくるでしょう。

 技術者の皆さんはお客様の髪がホームカラーで傷んでいると言います。ではホームカラーで傷んだらサロンに戻ってくるでしょうか?答えは「ノー」でした。お客様は新聞のチラシやTV通販で販売されている塩基性のカラートリートメントに移って行ってしまいました。
ヌースフィットにも、「カラーバタープレミアム」と「チャンティック」という塩基性カラートリートメントがありますが、売り出して何年経っても多くの美容師さんから「できそこないのカラー」と言われ続けました。しかし、一般市場では、この塩基性カラートリートメントが、その商品だけで美容界の大手メーカーのカラー売上をしのぐまでに成長してしまっていたのです。この現象は、お客様が自分でできる結果と、単純な作業しかできないサロンにおける結果があまり変わらないと判断していることを、如実に物語っています。知らぬ間に、サロンの意識とお客様の意識が離れてしまっていたのです。

 ホームカラーも塩基性カラートリートメントも、ドラッカー流に言えば「すでに起こった未来」だったのではないでしょうか?
サロンは、今後も差別化できるサービスを持たず、お客様が量販店でホームカラーや塩基性カラートリートメントを購入するのを座して見ているのでしょうか?それとも「すでに起こった未来」をプロにとってもチャンスと捉え、一般品では得られない価値を提供すべく努力すべきなのでしょうか?
私はこの頃の美容界で、技術の競争に勝った人よりも儲けた人間ばかりが賞賛されているような気がしますが、アマチュアでは決してできない技を、足したり引いたり、掛けたり割ったりして、追求する作業は、プロとして何にも代えがたい喜びを与えてくれると思います。

 それにこうした努力は、あまりお金もかかりません。

  「混ぜる」 ―― 私はこれはプロの基本的な性向であると思っています。

 なぜプロが使うカラーに何百色もの色味が必要なのでしょうか?赤と青を混ぜて紫を作ったからといって、薬事法違反で技術者を処罰するとでも言うのでしょうか?そんなことはありえないと思いますし、役所だって考えてはいないでしょう。同じように、薬剤の知識が増えてくれば、お客様の髪質や仕上がりを考えて薬剤を混合したり薄めたりするのは、プロとして当然の帰結であると言えます。カラーチャートで色合わせをするのがプロの技術だとは、まったく思えません。

例えば絵画の世界でも、画家の小林英樹氏は著書で大変興味深いことを述べています。氏はモネの『日傘をさす夫人』において、画家がパレット上にたった6色の絵具しか出していないことを述べており、

   色彩の画家といわれる画家たちは、例外なくパレットに出す色数は少ない。印象派の画家に限らず、マティス、ピカソ、ボナール、ルオー、シャガールなど、
  色彩豊かな画面は基本色を含んだ少ない絵具から生み出されている。 ・・・ 『色彩浴』      

また同じ著書で次のようにも述べています。

     子供には多くの色数を与えない。多くの色数を与えたら、その時点で子供の感性を摘み取ってしまうことになる。

国立近代美術館所蔵の『生々流転』を描いた横山大観は、墨一つで無限の色味を醸し出すことが可能であると言っています。
しかし混ぜるためには、一つひとつの色味に熟知していなければならないのは言うまでもないでしょう。
美容の世界においても、カラー剤やパーマ剤どうしを混合する場合は、個々の薬剤のスペックと理論がわかっていなければならないでしょう。それを理解するためには、相応の時間と努力が必要になります。

 ヌースフィットがプロ用に提供する薬剤は、パーマ(FMCB)もカラー(アルカリの少ないたった10色の中性域カラー)も、さらにはヘアケア製品にいたるまで、プロの工夫とお客様へのアドバイスが必要なものばかりです。
ちょっと面倒くさい、だからこそ髪のことを本気で考えるプロの技術者には「しっくりくる」、使いこなす価値のあるものばかりなのです。またヌースフィットでは1990年代からスペックを公開しています。
これらのヌースフィット製品を使い、他店と差別化されたサービスで成功されるサロンが増えてきたことは、私たちの大きな喜びであると同時に誇りでもあります。

 本年はこうした私どもの考えを踏まえ、マニアックではあるが人気のある講師陣を迎え、各地でちょっと面倒くさいがとても興味深いシステムに関する講習を行っていく予定です。 ご期待ください。

平成二十五年 元旦                株式会社ヌースフィット