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龍安寺蹲

2011/01/01
たゆまぬ努力を続けるヌースフィット---未来を切り拓く「わからない語」

  あけましておめでとうございます。昨年も一年わかりづらい集団にお付き合いいただき、心より御礼申し上げます。
 今年は卯年。『字統』(白川静)によれば、「卯」という字は、次のように記されています。

象形 牲肉を両分する形。卜辞に、犠牲を割く意に用いており、それが字の初義である。 [説文]に「冒(おほ)ふなり」と同声の字をもって訓し、「二月、萬物、地を冒(おか)して出づ 。門を開くの形に象(かたど)る。ゆえに二月を天門と為す」というのは、小篆(しょうてん)の字形によ って解するものであるが、卜文・金文の字形は牲肉を両断する形とみられる。

正確な意味は理解しませんが、神の前で生贄を屠ったりすることは、収穫や戦の前の重要な占いの儀式だったのでしょう。
そして願いが叶い天の門が開けば、戦に勝ったり、春に万物が地を割って生じてくると考えたのだと思います。その命を左右するような儀式に対する思いが、いつしか文字になっていったのでしょう。
白川静は、「漢字は象形文字である」と言っています。その象形文字のもっとも古いものが甲骨文字で、殷(いん、紀元前17~10世紀ごろ)の時代の文字です。
 私は、15年ほど前に初めて台湾の故宮博物院を訪れ、甲骨文字の「夢」という文字を見て感動し、私が開発したクパスバターと塩基性染料を配合したセミパーマネントカラーである「キュプアス・カラーバター」という商品のデザインにこの甲骨文字を使いました。
 話はちょっとそれましたが、私はこの「卯」の字は、障害に正面からぶつかり新しいことを切り拓いていく様を表していると思います。  新しいことをするとき、人はたいてい障害にぶつかります。しかし、それは別な面から考えれば新しいことをしている証左なのです。3年ほど前、弊社はFMCBという毛髪成形に関する新しい考えを提案しました。当初は目新しさで採用してくれたサロンさんやディーラーさんが少なからずありましたが、もともと今までの理屈に疑問を感じていない人は、少しいじって投げ出してしまうことが多々ありました。
当方も、もともとうちのことに興味があるサロンさんは数パーセントしかないだろうと思っていましたから、売れ行きが鈍ってもそんなもんだろうと余りショックも受けずにいました。
でも、考えは間違っていないと思っていましたから、弊社が開催する毛髪科学の3回コースでは、第一回の毛髪成形理論の中でご紹介していました。
 そんな中で、たまたまこの講習会に参加してくれていたのが、美容ネット界のカリスマ、mixiハンドル「MAGO」さんこと田中正巳氏だったのです。 田中氏は、7年ほど前からブログ上でパーマにおけるクリープ期の重要性を謳い、現在のクリープパーマブームの流れをつくった人です。
 その田中氏がFMCBに興味を持ってくれて、mixi上でマイミクと言われる仲間に紹介してくれたのです。
その中には元々非常に勉強熱心で、地域で勉強会を主宰している方々がいて、FMCBを応用した技術開発に取り組んでくれました。そして田中氏が呼びかけて、大阪と東京でFMCB・クリープ講習を11月と12月に開催することができました。どちらも80名もの方々が参加してくれました。

 これは、私にとっては思ってもみないことでした。と同時に、今までの「メーカー」⇔「商社」⇔「サロン」という、ともすれば分断されがちな情報の流れがもはや存在意義を失ってきたのだと感じました。
今までの流れの美容界の中では孤立者だった(と勝手にひがんでいるみたいですが)我々にとっては、まさに「卯」、天の扉が開いたような感覚を持ちました。いわゆる「ロング・テール」と言われる現象が美容界にも起こりつつあるのでしょうか。今後は情報を操作しようとすればするほど、孤立してしまうのではないかとも思いました。

 ここ数年の間に、mixi、アメーバブログ、YouTube、Twitterなど、さまざまなメディアが登場しました。一時は匿名性ゆえのブログの炎上などの問題も多発しましたが、現在ではFacebookのように実名が基本のメディアも出てきており、また私がメッセージを送りあっているmixiメンバーの多くも実名を明らかにするようになってきていて、マナーを保ちつつ活発なコミュニケーションを行っています。今後は、メーカー、商社、サロンに、サロンにいらっしゃるお客様も加えたコミュニケーションも頻繁に行われるようになるかもしれません。

 私自身のことで言えば、私はPCに関してはかなり詳しく、20年前から社内のデータベースを構築したり、薬剤の解説などにコンピュータグラフィックを活用してきましたが、mixiやブログなどに乗り遅れました。いまや、コンピュータを使えない人が、携帯でブログをバンバン書く時代になってしまったのです。しかも、そういった人々の方が旬な話題の伝播性が高く、社会に対するインパクトも強いのです。

 ヌースフィットはここ数年、「もっとわかりやすく」商品を売ることに力を入れていましたが、実際は私たちがやりたいことはウソのわかりやすさを売ることではありません。
毛髪をもっと知りたいと思って実験をしているとき、別に優秀でもない私たちの頭の中はまさにカオスのようです。しょせん自分らに難しいことを他人にわかりやすく伝えることなどできないのです。

 今後、私たちがすべきことは、このカオスを「わからない語」のまま、皆様にお伝えすることではないかと思っています。そして、わかりやすくするための無駄な努力をするのではなく、mixiやTwitterなどを通じてアウトプットを多くすべきだろうと思っています。 その一環として、昨年9月からTwitter上で、「きょうの毛髪科学」というテーマでつぶやいています(「#hairscience」で検索してみてください)。
そうして私たちのカオスが皆様のカオスと混じったとき、もしかしたら新しい発見があって、美容の未来が拓けるのかもしれません。それを信じて、また一年地味な努力を続けていくつもりです。

平成二十三年 元旦                株式会社ヌースフィット